• 2025年6月17日

圧迫骨折後の「隠れた課題」:腰痛・だるさと向き合い、歩行能力を取り戻すリハビリテーション

皆様こんにちは。
田所整形外科クリニック院長の丸野です。

「圧迫骨折の治療が終わり、骨もくっついたと言われたのに、なんだか腰の調子が良くない…」
「以前のようなシャキっとした感じが戻らず、腰が重だるい、長く歩くと痛む…」

圧迫骨折を経験された方の中には、このように骨癒合(こつゆごう)の診断を受けた後も、スッキリしない症状に悩まされている方が少なくありません。今回は、こうした圧迫骨折後の「隠れた課題」とも言える長引く腰痛やだるさ、そしてそれらを克服し、再びしっかりと歩けるようになるためのリハビリテーションの重要性について、私の経験も交えながらお話ししたいと思います。


なぜ骨癒合後も症状が続くのか?

圧迫骨折では、背骨の椎体という部分が潰れるように変形します。そして残念ながら、一度潰れてしまった椎体は、骨が癒合しても完全に元の形に戻るわけではありません。多くの場合、ある程度変形したまま治癒します。骨癒合後も症状が残りやすい主な理由として、以下のような点が挙げられます。

  • 背骨の変形とアライメントの変化: 椎体が変形したまま固まることで、背骨全体のバランス(アライメント)が変わり、特定の場所に負担がかかりやすくなります。これが慢性的な痛みやだるさの原因となることがあります。

また椎体の変形したまま固まった後でも、経年的にその後に腰の曲がりが徐々に強くなってきます。(下記の写真は左:骨折1年後、右:骨折2か月後)

  • 筋力の低下とアンバランス: 骨折後の安静期間やコルセット装着期間中に、体幹(特に背筋や腹筋)の筋力が低下したり、筋肉のバランスが崩れたりします。弱った筋肉では体をしっかり支えきれず、疲れやすさや痛みにつながります。
  • 間違った体の使い方・姿勢の癖: 痛みをかばううちに、不自然な体の使い方や姿勢の癖がついてしまうことがあります。これがさらなる不調を招くこともあります。
  • 心理的な要因: 「また痛くなるのでは」「動くのが怖い」といった不安感が、無意識に活動量を低下させ、結果として体力や柔軟性の低下を招くことがあります。

リハビリテーションの重要性:「もう大丈夫」の先にある本当の回復

「骨がくっついたから、もう大丈夫」というのは、あくまで骨折そのものが治ったという意味であり、体全体の機能が元通りになったということではありません。圧迫骨折後の本当の回復とは、痛みが軽減し、日常生活を支障なく送れるようになり、そして何よりもご自身の足でしっかりと歩けるようになることだと私は考えています。

そのためには、骨癒合後の適切なリハビリテーションが不可欠です。曲がった姿勢は連鎖的に次の骨折を生じる可能性が高く、リハビリは次の骨折の予防にもなるのです。リハビリテーションは、単に筋力を鍛えるだけでなく、以下のような多面的な効果を目指します。

  • 痛みの軽減・コントロール
  • 低下した筋力の回復と正しいバランスの再構築
  • 関節の柔軟性の改善
  • 正しい姿勢と動作の習得
  • 歩行能力の向上と安定性の確保
  • 自信の回復と活動的な生活への復帰支援

具体的なリハビリテーションの内容

圧迫骨折後のリハビリテーションは、個々の患者さんの状態や体力、生活目標に合わせて段階的に進められます。決して無理強いするものではなく、専門家の指導のもと、安全かつ効果的に行うことが大切です。

一般的な内容としては、以下のようなものが挙げられます。

  1. 評価と計画: まず、現在の痛み、筋力、柔軟性、バランス能力、歩行状態などを詳しく評価し、個別のリハビリ計画を立てます。
  2. 痛みの管理: 必要に応じて温熱療法や電気治療などで痛みを和らげながら、リハビリを進めます。
  3. 運動療法:
    • 柔軟運動(ストレッチ): 硬くなった筋肉や関節をゆっくりと伸ばし、可動域を広げます。
    • 筋力トレーニング: 背骨を支える体幹の筋肉(腹筋、背筋)を中心に、下肢の筋力も強化します。急に強い負荷をかけるのではなく、自重や軽い負荷から始め、徐々にステップアップします。
    • バランストレーニング: ふらつきを抑え、転倒を予防するために、バランス能力を高める訓練を行います。
    • 姿勢指導・動作指導: 日常生活での正しい姿勢の保ち方、腰に負担をかけない動作(起き上がり方、物の持ち方など)を学びます。特に、体を丸めたり、捻ったりする動作は避けるよう指導します。
  4. 歩行訓練: 正しいフォームで、安定して歩けるように練習します。最初は短い距離から始め、徐々に距離や時間を延ばしていきます。必要に応じて杖や歩行器などの補助具も活用します。
  5. 自主トレーニング・生活指導: ご自宅でも継続して行える運動メニューの指導や、日常生活での注意点(長時間の同じ姿勢を避ける、30分~1時間に一度は立ち上がって背筋を伸ばすなど)についてもお伝えします。

歩行能力の再獲得に向けて:根気強さが鍵

圧迫骨折後のリハビリテーションは、一朝一夕に効果が出るものではありません。特に長期間にわたって低下した筋力やバランス能力を取り戻すには、ある程度の時間と「根気強さ」が必要です。

焦らず、諦めず、専門家と相談しながら一歩一歩進めていくことが、確実な歩行能力の再獲得、そして生活の質の向上につながります。痛みが軽減し、できることが増えていく喜びを感じられるようになれば、リハビリへのモチベーションもさらに高まるでしょう。


当院でのMRI検査について:三宮あんしんクリニックとの連携

当クリニックでは、より精密な検査を通じて的確な診断を行うために、必要に応じてMRI検査を推奨しております。MRI検査は、強力な磁石と電波を利用して体内の詳細な断面像を得る検査方法で、X線を使用しないため放射線被ばくの心配がありません。特に整形外科の分野では、レントゲン検査だけでは評価が難しい骨の内部の状態、軟骨、椎間板、靭帯、腱、筋肉、さらには神経といった軟部組織の異常や、微細な骨折、炎症、腫瘍などの診断に非常に有効です。これにより、より正確な治療方針を立てることが可能になります。

MRI検査が必要となった場合の当院からのご案内

当クリニックでは、MRI検査が必要と判断された患者様には、三宮にございます連携医療機関「あんしんクリニック」をご紹介し、スムーズに検査を受けていただけるよう手配いたします。

検査までの大まかな流れ

  1. 当クリニックでの診察・予約: 医師がMRI検査の必要性を判断した場合、当クリニックのスタッフが「あんしんクリニック」の検査予約をお取りいたします。
  2. 問診票のご記入: MRI検査を安全かつ正確に行うため、当クリニックにて事前にMRI検査専用の問診票にご記入いただきます。この問診票では、心臓ペースメーカーの有無、手術歴(体内の金属の有無)、妊娠の可能性など、検査の可否に関わる重要な項目を確認させていただきます。ご不明な点はスタッフにお尋ねください。
  3. ご紹介と資料のお渡し: ご記入いただいた問診票と当院からの紹介状を専用の封筒に入れてお渡しします。検査当日は、この封筒を必ず「あんしんクリニック」へご持参ください。

「あんしんクリニック」での検査当日

  • 原則として、ご予約いただいた検査時間の30分前に「あんしんクリニック」へご来院ください。
  • 受付にて、当院からお渡しした封筒をご提出ください。
  • MRI検査の撮影時間は、検査部位や内容にもよりますが、概ね20分~30分程度です。(検査中は工事現場のような大きな音がしますが、ヘッドホンなどで対応いただけます。)
  • 検査当日、「あんしんクリニック」の窓口でのお会計は発生しません。

検査結果とご精算について

検査データと読影レポートは「あんしんクリニック」から当クリニックに送付されます。後日、当クリニックの診察にて、医師から直接、検査結果を詳しくご説明いたします。その際に当クリニックの窓口にて、検査費用につきましてもまとめてご精算いただきます。

当クリニックは、「あんしんクリニック」と緊密に連携を取り、患者様が安心して質の高いMRI検査を受け、その結果に基づいた最適な治療へと進んでいただけるよう、全力でサポートさせていただきます。MRI検査やご紹介の流れに関して、ご不明な点やご心配な点がございましたら、どうぞご遠慮なく当クリニックのスタッフにお気軽にお声がけください。


圧迫骨折後の人生を、より豊かに

圧迫骨折は、その後の生活に大きな影響を与えうる疾患です。しかし、骨癒合後の「隠れた課題」に早期から気づき、適切なリハビリテーションに真摯に取り組むことで、多くの場合、痛みやだるさは改善し、再び活動的な日々を取り戻すことが可能です。

「もう年だから」「骨折したのだから仕方ない」と諦めてしまう前に、ぜひ一度、主治医やリハビリテーションの専門家にご相談ください。皆様が圧迫骨折を乗り越え、自信を持って歩き続けられるよう、心から応援しています。

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